ニーズとウォンツの違いとは?具体例をもとに解説

マーケティング業務に従事していると「顧客ニーズを捉える」と言った言葉をよく耳にします。マーケティングにおいて、顧客を中心に考え、そのニーズを捉えることは、商品サービスの開発、プロモーション活動において、最も重要なプロセスと言えます。この記事では、マーケティングにおける「ニーズ」の基礎となる情報を具体例も交えて紹介しています。

ニーズとは

ニーズ(Needs)とは、マーケティングにおいては、「消費者が必要だと思うこと」を意味します。そして、ニーズには、大きく「顕在ニーズ」「潜在ニーズ」があります。

顕在ニーズと潜在ニーズ

顕在ニーズと潜在ニーズの違いを端的にまとめると下表のようになります。

定義特徴適した調査手法
顕在ニーズ消費者自身が自覚しているニーズ捉えやすいが、充足されていることが多く、差別化しづらい(コモディティ化している)WEBアンケートなどの定量調査
潜在ニーズ消費者自身が自覚していない「無意識」のニーズ捉えづらいが、未充足で、差別化しやすいデプスインタビュー、文章完成法、行動観察、ソーシャルリスニング、MROCなど(主に定性調査)

顕在ニーズは、消費者自身が自覚しているニーズで、「早く、安く、空腹を満たしたい」「楽して痩せたい」と言ったニーズです。顕在ニーズは、消費者自身が自覚をしていることなので、どういったニーズを持っているか問いかければ、答えることができます。そのため、顕在ニーズを把握する場合は、WEBアンケートのような定量調査で聴取することができます。

一方、潜在ニーズについては、消費者自身が自覚していない「無意識」のニーズになりますので、直接的に消費者に問いかけても回答されないことが多いです。そのため、調査手法としては、デプスインタビューや行動観察など主に定性調査により、消費者の潜在ニーズを「炙り出す」ようなアプローチをします。(潜在ニーズと似た概念に「インサイト」があります。インサイトは、潜在ニーズよりも人間の意識の更に深いところにある「消費者の行動を起こさせる心理」になります。)

潜在ニーズを捉える意義

脳科学において、消費者の思考や行動は、5%の意識と95%の無意識で構成されていると言われています。そのため、ニーズにおいても、顕在ニーズで捉えることができるのはわずか5%で、残りの95%は潜在ニーズとなり、消費者も自覚ができていないニーズとなります。

昨今においては、この潜在ニーズをいかに捉えるかが、ビジネスを成功させる上での鍵となると言われています。物やサービスがまだ豊かではなかった時代には、消費者にとっての問題が顕在化しており、顕在ニーズを満たせば、ビジネスが伸びる時代でした。しかし、昨今は、技術の進化により、多くの商品・サービスが一定以上の品質を提供できる状態、いわゆる「コモディティ化」した市場が増えたことで、顕在ニーズを満たしても差別化がしづらい時代となりました。そこで、潜在ニーズをいち早く発見し、ニーズを満たす商品・サービスを提供することで、ビジネスの成功につながるのです。

ウォンツとは(ニーズとの違いについて)

ニーズとよく混同される概念に「ウォンツ(Wants)」があります。ウォンツとは、「ニーズを実現する手段」になります。ニーズとウォンツの違いを理解いただくためにいくつか具体例で紹介をします。

ニーズウォンツ
意味消費者が必要だと思うことニーズを実現する手段
例1壁に穴を開けたいドリル
例2安く早く空腹を満たしたいハンバーガー、牛丼、カレー
例3痩せたいサプリ、ヨガ、健康器具

例えば、例1のように「壁に穴を開けたい」と思ったら、それはニーズです。そして、壁に穴を開ける手段として「ドリルが欲しい」というのがウォンツになります。

また、例2のように「安く早く空腹を満たしたい」と思うのがニーズ、その手段として、ハンバーガー、牛丼、カレーなどの選択肢が思い浮かぶと思いますが、これらがウォンツです。

同様に、例3の「痩せたい」というニーズに対して、ダイエットサプリやヨガ教室に通うこと、健康器具を欲しいと思うことがウォンツになります。

潜在ニーズを把握するための調査手法

前述の通り、潜在ニーズは、消費者自身も自覚していないニーズのため、定量調査で直接的に聞いても引き出すことが難しいです。ここでは、潜在ニーズを引き出すための調査手法についていくつか紹介をします。

デプスインタビュー(Depth Interview: DI)

デプスインタビューは、対象者の深層心理や本音、価値観を掘り下げて理解するための、詳細で個別的な調査手法です。通常、1対1でインタビューが行われます。

文章完成法(Sentence Completion Test: SCT)

文章完成法は、心理学や教育の分野で用いられる投影法の一種で、未完成の文章を提示し、それを自由に補完してもらうことで被験者の無意識の考えや感情、価値観、欲求などを明らかにする調査手法です。この方法は、被験者が文章を補完する過程で内面に抱えている思いや、意識的には気づいていない潜在的な感情が反映されると考えられています。
(例)「もし私が今、お金があったら、私は(   )。」

行動観察(エスノグラフィ)

消費者が商品やサービスに対してどのような行動をとるかを実際に観察し、データを収集する手法です。例えば、実際の店舗などで消費者がどの商品に手を伸ばすかを記録し、その商品の特徴や配置との関連を分析します。行動を直接観察することで、潜在ニーズを発見することにつなげることができます。

ソーシャルリスニング

ソーシャルリスニングは、SNSやオンラインコミュニティ、ブログ、フォーラム(ネット上で特定のテーマについて意見や情報を交換できる仮想的な討論の場)などのデジタルプラットフォーム上で、ユーザーが発信する意見や会話を分析し、企業やブランドに関する話題や感情、トレンドを把握する手法です。

コミュニティリサーチ(MROC: Market Research Online Community)

コミュニティリサーチは、企業や組織が特定のターゲット層を集めて、オンライン上で継続的にマーケティングリサーチを行うための専用コミュニティを作り、その中で参加者の意見や感想を収集・分析する調査手法です。