マーケターであれば必ず一度は経験するユーザーへのデプスインタビュー(定性調査)。この記事では、筆者の実体験をもとに効果的なデプスインタビューのポイントをまとめています。ぜひこれからデプスインタビューを計画しているマーケターや商品企画担当の方はご一読ください。
デプスインタビューとは(定量アンケート調査との違い)
まずデプスインタビュー(定性調査)とアンケート調査(定量調査)の違いを整理することでそれぞれの調査の特性や目的を確認します。シンプルに「目的」でまとめるとこのようになります。
定量調査(アンケート調査) | 定性調査(デプスインタビュー) | |
目的 | ・市場実態の把握 ・仮説の検証(数値データを得る) | ・ニーズや原因の深掘り ・仮説づくり(言葉でのWHYを得る) |
定性・定量ともに目的を2つずつ記載していますが、例えば次のような調査設計にすることがあります。
【パターンA】定性調査で仮説づくり→定量調査で検証
例えば、最近担当している商品の売れ筋が悪くなってきているとき、その原因を調査で発見しようと思いつきます。対策を洗い出し、優先度を付けて実行したいと考えているため、アンケート調査を行ってユーザーの中で回答の割合が多い課題を見つけようとします。 しかし、ユーザーへの理解がそもそも不足しているためどんな選択肢で課題を設定してアンケート票を作成すればよいのかわかりません。そこで先に仮説を作るためにデプスインタビューを行い、少ない人数ではありますが、実際にユーザーの話を聞くことで、「もしかしたらこれが課題なのかもしれない」と仮説を立てられるようにします。そして最終的に仮説を検証する(正しかったのかを確かめる)ために定量的な結果を得るためにアンケート調査を行う流れです。
【パターンB】定量調査で実態を把握→定性調査でニーズ・原因を深掘り
一方、先に定量調査を行い、次に定性調査を行う場合の流れです。例えば、新しく開発を企画している商品のターゲットが市場にどれくらい存在するのかを把握したり、商品のコンセプト案の評価(欲しいと思うかなど)を取得して商品の販売が見込めそうかをアンケート調査で把握します。仮にあまり商品に対する評価が高くなかったときには、評価を悪く回答した人の中から何名かを集めてデプスインタビューを行い、直接その原因を探ることで商品の改善点を発見するといった流れになります。
このように定量・定性を組み合わせること、またその順序を使い分けることで明らかにしたいことを発見できる調査にすることができます。
消費者インサイトとは(P&Gのヒット商品「レノア」の事例)
それではここからは、デプスインタビューに焦点を当てて、そのポイントをまとめていきます。インタビューの具体的な方法に入る前に、まずインタビューを通して捉える「消費者インサイト」について何かをまとめます。「インサイト」の定義は調査会社大手のマクロミルで次のように定義されています。
インサイトとは、直訳すると「洞察」、「本質を見抜くこと」を指すが、マーケティングにおけるインサイトとは「消費者インサイト」を指す場合が多い。消費者インサイトとは、消費者の購買行動の根底にある、時には本人さえも気付いていない動機・本音のことである。
https://www.macromill.com/research-words/insight.html
ポイントは「本人さえも気付いていない動機・本音」という点になります。つまり「無意識」の部分です。私たちの行動のほとんどは「無意識」で起きており、「なんで?」と聞かれても明確に答えられないことも多くあります。
例えば、マーケティング業界で有名な話にP&G社の柔軟剤「レノア」の話があります。当時、柔軟剤市場は縮小しており、消費者から(主に主婦の方達から)は「柔軟剤はなんとなく使っている」とその必要性が感じられないものとして認知されていました。そこで同社はリサーチを行い、柔軟剤の効果を消費者に意識があまりされていなかった「仕上がりの良さ・柔らかさ」ではなく「匂い・香り」とすることでレノアで一気に販売数を回復させたという話があります。これはまさに消費者の無意識の部分つまりインサイトを捉えた事例であり、消費者が柔軟剤を使うメリットを無意識に感じていたのは「匂い・香り」であったという発見から生まれたエピソードです。
デプスインタビューのポイント
それでは消費者インサイト(消費者の無意識のニーズ)を捉えるためにはどのようにデプスインタビューを実施する必要があるでしょうか。その答えは、自分たちの知りたいことの押し付けではなく、「消費者のことを知ろう。理解しよう。」という姿勢を徹底することにあります。
例えば私たちがよくやりがちなインタビューの例として
・「そのとき商品を買わなかった理由ではなんですか?」
・「この商品は買いたいですか?」
・「この商品がもっと安かったら買いたいと思いますか?」
とこちらの聞きたいことを押し付けるような聞き方をすることがあります。このような質問の仕方でも消費者はなんとか理由を見つけて答えてくれるでしょうが、それはその人の本音ではない可能性も高いです。(多くの商品担当者に囲まれて、「この商品をどう思いますか?」と聞かれたら多くの人がどんなに悪い印象でも気を遣った回答の仕方をしてしまうのではないでしょうか。)また、このような聞き方であれば、実は定量アンケートで聞けばよく、わざわざユーザーを目の前にしたデプスインタビューで聞く必要はないということもあります。
このような所謂「誘導尋問」的な質問を避け、本当に私たちが発見したいインサイトを発見するためにも消費者の立場に立った「あなたのことを知りたいのです。」という姿勢を徹底することが大事になります。
例えば先ほどの質問は
・「その商品を初めて見たときのことを思い出してください。どういう気持ちでその商品を検討したのですか?」 ・「例えばこのような商品があったとします。思ったことを声に出してみてください。」 ・「例えばどんな点があったらこの商品をもっと欲しいと思いますか?」
などと聞くことで、私たち調査をする側の余計なバイアスをかけずに消費者の本音に近い気持ちを聞くことにつながります。言い換えるとクローズドな質問(こちらから選択肢を与えるような問い方)ではなく、できるだけオープンな質問(相手の考えをまずは聞き出すような問い方)をすることを心がけると良いのだと考えます。
イメージとして「消費者の生活を覗き見する」という感覚に近いのがデプスインタビューだと言います。また、このように消費者側の視点でインタビューを進めることで、その人がどんな人で(WHO)、何を価値と感じて(WHAT)、どうすれば行動・態度が変容するのか(HOW)を1つのストーリーとして把握することができ、消費者インサイトの発見につながるとも言います。
相手を焦らせない。沈黙を怖がらない。
インタビューの対話の中で沈黙の時間があると怖いものです。私も沈黙がすごく苦手な方で、会議で誰も話さないと時間が流れると話を切り出すのは大抵自分です。ですが、沈黙を恐れて「○○さんとしては、こういった考え方をお持ちなんじゃないでしょうか?」など押し付けるような質問をすることは避けましょう。相手がなかなか答えられない時は、同じ質問を別の聞き方で聞いてみるのがいいです。相手を焦らせず、待つ姿勢を心がけましょう。
距離を縮めつつも相手を気分良くはさせない
初対面の人に本音を話すことは誰でも難しいことで、インタビューでもアイスブレイクなどを通して一定の距離を相手と縮めることが大事です。ですが、一方で、(一見矛盾しているようにも感じられますが)被験者を「ヨイショ」し過ぎて気分を良くさせ過ぎると今度は本音ではないことまで語り始めます。相手の話を聞く際の具体的な表現としては「ふーん」や「へえ」などで十分です。「そうなんですね!すごいですね!」といった相手を持ち上げるような表現はできるだけ避けた方が良いでしょう。大事なのは「私はあなたに興味があります。」という姿勢を見せ続けることです。
時間配分はざっくりと持つ
限られた時間の中でインタビューを進行するためにタイムキープは大事です。ただインタビューの流れによっては、深掘りをするために時間を掛けたい場面も随所に出てきます。あまりにも時間を意識し過ぎて浅いインタビューになってしまうことを避けるために、ざっくりとした時間配分を用意しておくことをお薦めします。このパートは開始15分までに終わらせよう。や30分までにこのパートまで終わっていなかったら少しこちらでまとめる形にして話を切り上げよう。などの判断ができるようにしておくといいでしょう。
実際の運営におけるヒント
「言うは易し、行うは難し」。ポイントは分かったが実際にインタビューをやってみるとなかなかうまくはいきません。特にこれまで「調査側の視点」で「定量的な問い方」に慣れてしまっているととっさに質問が出てこなくなります。
・簡単な宿題を出し、事前に被験者の情報を得ておく
性別、年齢、年収などの基本的な属性情報だけでは、限られたインタビュー時間の中でうまく深ぼれないということもあるかと思います。また、被験者としてもいきなり問われて答えられない。ということもあるでしょう。10分くらいで簡単に取り組める内容であれば、被験者にも負荷なく対応してもらえるので、インタビューのKeyとなりそうな質問については事前に宿題として提出してもらい、その情報をインプットした上でインタビューに臨むと良いでしょう。
・ロールプレーで練習をする
基本的なことですが、やはり事前に一度はやってみることが大事です。一度やってみればうまくいかなかったところがわかり対策ができます。周囲で被験者役を演じてもらえる同僚や知人を見つけてランチを奢るくらいのインセンティブで付き合ってもらうのをお薦めします。
・その人を理解することを意識する
記事の中でもお伝えした重要なポイントでした。いろいろなテクニックを覚えてもインタビューは相手の話を理解しながら臨機応変に対応することが求められるため、あまり情報過多になると混乱します。「あれを聞かなきゃ」「こう質問しなきゃ」と思わず、シンプルに「この人はどんな人なのか知りたい」という姿勢を忘れないでいることが大事と言えます。
・インタビューのプロを雇う
マーケターや商品企画担当であれば自身でデプスインタビューができるようになることはプラスですし、消費者インサイトを捉えられるようになることで企画力にもつながるのでトライすることをお薦めします。しかし、準備期間もなく調査結果を重視するのであればプロに依頼するというのも間違った選択ではありません。リサーチ会社からインタビューアーをアサインしてもらうこともできると思いますし、個人として活動されている方もいるので、そういった方との繋がりを作っておくのも良いかと思います。
まとめ
・定量調査、定性調査それぞれの特性を理解し目的に応じて使い分ける
・消費者インサイトは、消費者の無意識の行動を理解することである
・デプスインタビューは「消費者の生活を覗き見する」感覚でその人を理解しようとすることが重要
・オープンな質問を心がけ、調査側のバイアスを与えない
・事前の宿題、練習など準備をしっかり行うことでインタビューの質を高める