STPマーケティングとは?基礎知識や策定ポイントを解説

この記事では、筆者が勤務先で実際にSTPを策定したときの経験をもとに、STPの基礎知識や策定時のポイントなどを解説しています。

これからSTPを策定する方や、すでに会社で策定されたSTPはあるけれど、理解を深めたいという方におすすめの記事となっています。

STPとは?

STPとはマーケティング戦略において、「誰に(WHO)、どのような価値(WHAT)を提供するか」を決めることです。市場を細分化し(Segmentation)、狙うべき市場を決め(Targeting)、自社の強みなどを踏まえて立ち位置を明確にする(Positioning)ことで、顧客獲得につながる商品・サービスの開発やプロモーションを実現します。

STP

セグメンテーション(Segmentation)

セグメンテーションは、市場 ≒ 顧客を同じニーズや属性のグループに分け、市場を細分化(セグメント)することを意味します。グループに分ける変数は、次の4つが代表的です。

セグメンテーションの4つの代表的な変数(軸)

変数(軸)
地理的変数地域、人口規模、気候、文化
人口動態的変数性別、年齢、年収、職業
心理的変数価値観・パーソナリティ・ライフスタイル
行動変数購入頻度、使用用途、ロイヤリティ

地理的変数と人口動態的変数は、データが比較的取得しやすく、軸として使われやすいですが多様化する消費者のニーズを捉えづらくなっていると言われています。

一方で、心理的変数と行動変数は、消費者のニーズを捉えやすいですが、アンケート調査やログデータをもとに作られる軸となるため、データの取得や軸の作成に比較的負荷が掛かるというデメリットがあります。

セグメントは、通常2軸で作成することが多いですが、どのような観点で作成したら良いかのポイントをまとめると次の3点になります。

市場が捉えやすいか規模感か

例えば、職種を軸の1つに置いたときに人事、労務、総務・・・と何十もある職種でセグメントを作ると、1つ1つのセグメントの規模が小さくなり、捉えにくくなります。そのような場合には、例えば、「事務職」「営業職」「技術職」などのまとまりで括り、規模を捉えやすくします。

職種セグメントの例

セグメント間に傾向の差が見られるか

例えば、人材紹介事業を営む会社が、年収セグメントを作ったとき、各年収帯のキャリアニーズを分析したところ、次のような傾向が見られたとします。
①年収400万円未満・・・「今とは違う会社でキャリアアップをしたい」
②年収400~600万円・・・「ライフワークバランスを重視したい」
③年収600~800万円・・・「ライフワークバランスを重視したい」
④年収800万円~・・・「今の会社で昇進したい」

年収セグメントの例

このような場合に、セグメント②と③には、セグメント間のニーズの差が見られないため、一括りにして年収400~800万円のセグメントとする方が運用しやすいセグメントになります。(※実際には、キャリアニーズの傾向をより詳細に分析したり、他の属性データの傾向も分析したりしますが、ここでは、解説をわかりやすくするために便宜上、簡略した例にしています。)

セグメントを作成する際は、セグメント間の傾向差を分析した上で、適切なまとまりで捉えるようにしましょう。

管理・再現がしやすいか

STPは、戦略のため、一度策定したら中長期に渡って使用し、ターゲット市場において、どれだけ顧客化が進んだかを定期的に計測します。そのため、市場規模が変動しやすい項目や複雑な定義の軸は、管理・再現がしづらくなるため注意が必要です。

例えば、よくセグメンテーションの手法として、「クラスタ分析」を用いるケースもありますが、筆者としては、あまりお薦めはできません。実際にクラスタ分析の結果をもとにSTPを運用した経験がありますが、クラスタ分けをするためのアンケート設問が多くなってしまったり、結果の解釈が難しく、STPを現場に浸透させるのが困難になることがあります。

STPは、できるだけ誰でも解釈しやすい内容にすることで、商品開発やマーケティングに関わる全ての担当者が共通認識を持つことができ、効果的なアクションへとつながっていきます。

ターゲティング(Targeting)

セグメンテーションで細分化した市場の中から、どの市場を事業の対象とするかを決定します。ターゲットには、「戦略ターゲット」と「コアターゲット」があります。

「戦略ターゲット」とは、マーケティング予算を投下する最も大きい対象のことで、中長期的な時間軸で設定するターゲットになります。裏を返せば、戦略ターゲット以外には、予算を投下しないことを決めるということになります。

例えば、人材紹介事業を営む企業が、「職種」✖️「個人年収」の2軸でセグメンテーションを作ったとします。戦略ターゲットをその他の職種を除く、年収400万円以上としら下図のようなイメージとなります。

次に「コアターゲット」は、戦略ターゲットの中で特に予算を集中的に投下するターゲットのことです。先ほど、定義した戦略ターゲットの中で、コアターゲットを事務職・営業職(非技術職)で年収は800万円以上の高所得層とした場合、下図のようなイメージなります。

コアターゲットは、事業状況に応じて短期的に変更する場合もあるターゲットになります。ターゲティングを決める判断基準としては、対象とする市場の規模や今後の成長性、自社にとって競合優位性・独自性が出せそうかといった観点があります。

ターゲティングにおける「6R」の指標

ターゲティングを評価する指標として6Rというものがあります。これらの観点をもとにターゲティングが有効かを検討しましょう。

観点意味
Realistic scale(有効な規模)市場規模は適切か
Rate of growth(成長率)今後の成長性はあるか
Rival(競合)競合は多いか、少ないか(レッドオーシャンかブルーオーシャンか)
Rank(優先順位)顧客にとって関心度が高いか
Reach(到達可能性)顧客に届けられるか
Response(測定可能性)測定可能な指標を持てるか

なお、ターゲティングで優先的に対象とする顧客は、集団としての特徴であるため、より顧客像を明確にし、社内の「共通言語」として一貫したプロモーションや具体的な施策につなげるために「ペルソナ」を設定する場合もあります。ペルソナは、実在する顧客のイメージであり、複数の具体的な人物像を定性的にインタビュー調査などから集め共通項などを抽出して作成したりもします。

ペルソナ

ポジショニング(Positioning)

セグメンテーションで市場を細分化し、ターゲティングで顧客とする市場を決めたら、自社の強みや競合の存在を踏まえて、その市場における優位なポジションを見つけます。

ポジショニングで最も重要なのは、他社では出せない自社の強み(バリュープロポジション)をどこに見出して競合優位性を生かしたポジショニングをしていけるかです。そのためにポジショニングマップを作り、自社の立ち位置を明確化していきます。

ターゲティングまでの事例で扱った人材紹介事業の例で考えてみましょう。コアターゲットに設定した「事務職・営業職で年収800万円以上の人」を対象として、その市場における自社と競合のポジショニングマップを下図のように作成しました。

ポジショニングマップ

まず、マップの縦軸を人材紹介サービスとして、「特定の業界・職種に強い」か「幅広い業界・職種に対応」しているか。横軸を紹介案件のマッチングが、「人によるサポートが手厚い」か「AIによる精度の高いレコメンド」かで2軸を設定しました。

その結果、自社の既存サービス(自社既存)と競合がこのようにマッピングされたとします。この結果、右上の事象がまだプレーヤーの少ない「ブルーオーシャン」の領域ということがわかりました。そこで、自社として新規に提供するサービスは、この右上の事象(特定の業界・職種に強く、人によるサポートが手厚い人材紹介サービス)でポジションを取りに行くことを決めます。

このように、ポジショニングマップを作ることで、その市場における自社と競合の立ち位置が可視化され、戦略の方向性を定めるための気づきを得ることができます。

ポジショニングマップの作成時のポイントは下記です。

  • ターゲットとなる顧客視点での軸にする。
  • 関連性が低い2軸を選ぶ。
  • 優劣が決まる軸は選ばない。

まとめ

以上が、STPに関する解説となります。STPはマーケティング戦略そのものです。マーケティング活動の全てのアクションが、STPで定めたターゲットに対して行われているか、自社の取るべきポジショニングが消費者に認知してもらえるコミュニケーションになっているかをSTPをもとに確認するようにしましょう。

また、STPの策定の前後では、市場環境分析や4Pの策定などが行われ、マーケティングプロセスにおける戦略〜戦術へとつながっていきます。

マーケティングプロセスと紐づくフレームワークの全体像

マーケティングプロセスや各プロセスで用いられる代表的なフレームワークについて、詳しくは、こちらの記事で扱っていますので、よろしければご一読ください。

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<STP策定のポイントまとめ>

  • STPとは、「誰に(WHO)」「どのような価値を提供するか(WHAT)」を決めること。市場を細分化し(Segmentation)、狙うべき市場を決め(Targeting)、自社の強みなどを踏まえて立ち位置を明確にする(Positioning)ことで、顧客獲得につながる商品・サービスの開発やプロモーションを実現する。
  • セグメンテーションのポイントは、「市場が捉えやすい規模か」「セグメント間にニーズの差が見られるか」「管理・再現がしやすいか」である。
  • ターゲティングは、6R(Realistic scale:有効な規模、Rate of growth:成長率、Rival:競合、Rank:優先順位、Reach:到達可能性、Response:測定可能性)の観点で選定をする。
  • ポジショニングで最も重要なのは、他社では出せない自社の強み(バリュープロポジション)をどこに見出して競合優位性を生かしたポジショニングをしていけるかである。そのためにポジショニングマップを作り、自社の立ち位置を明確化していく。

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